2006年12月2日(土)に第152回研究会を開催した。出席者は38名。

1.「トナー外添条件の検討」(東レエンジニアリング 稲垣潤):レーザプリンタの印字品質の改善を試みた。トナー帯電が不安定になると逆極に帯電するトナーが発生し,そのトナーが非画像部に現像してかぶりとなる。逆極に帯電するトナー量を最小にすることでかぶり対策ができると考え,トナーに外添する金属酸化物の材料選定・外添作業の最適条件を探求した事例であった。メンバーからは,極性の度数分布の半値幅による評価や,入力:外添剤の量,出力:帯電量として動特性で解析する方法等の活発な意見交換が行われた。

2.「リフロー炉温度プロファイルの最適化」(村田機械 荘所義弘):顧客要求に対応したはんだに切り替えるため,熱風と赤外線で複合加熱するリフロー炉の温度条件の最適化を試みるための事例相談があった。重要案件は,はんだ溶融温度と部品耐熱がトレードオフになること,部品サイズが混在していること,部品購入時にリード線にはんだが塗布されている部品があることなどがある。メンバーからは,リフローの前工程を安定化させること,安全設計は損失関数を活用すること等のアドバイスがあった。

3.「購入部品の機能性評価」(ジーエス・ユアサ 出水清治):第12回品質工学研究発表大会で新電元工業(株)から発表された「購入部品の機能性評価」の事例について,電子部品受入時に信頼性をどうチェックするのかという側面から議論した。メンバーからは,基本機能のSN比で部品の優劣は可能になる,損失(L)はL=C+Qで考えるべき等の活発な意見交換が行われた。

4.「6社協同による写真用ゼラチン新試験法の開発と制定」(花王 坂本雅基):

2006年10月の学会誌に掲載された事例について,規格値を決めない評価方法について議論した。メンバーからは,生産技術開発と製品開発はコンカレント開発で進める方がよい,開発のための機能性評価は基本機能,取引のための機能性評価は目的機能でよい,規格値は損失関数で決める等の議論が行われた。

(富士ゼロックス 櫻井英二 記)

 

2006年11月6日(月)に第151回研究会を開催した。出席者は28名。

1.講演「計測分野における品質工学の展開―硬さ試験を通して―」(アサヒ技研 中井功):日本軸受検査協会に勤務していた時代に行っていたベアリングの輸出検査を出発点として,その際に取り組んだ硬さ試験について硬さ試験機の従来の評価の方法から,品質工学を用いた評価方法への変遷ならびに硬さ試験機の評価,硬さ標準片に関する熱処理条件の最適化の考え方を事例を用いて説明が行われた。講演では,40~50年前の“Made in Japan”は評価が低く,当時の通産省の指示に従い,各業界ごとに検査会社を作り法律によって輸出検査を行うようになった。ベアリング業界でも「日本軸受検査協会」が設置され,その後,財団法人として輸出検査業務に従事した。その中で硬さ標準の不統一に直面し,そこで「硬さの計測の標準化」を中心とした硬さ試験機の校正問題に取り組んだ。そのため,計量研究所での技術研修を受け,SN比による評価法から品質工学を知った。従来では反復計測や試験片のばらつきをノイズとして選定する方法が主流で,時代と共に,使用環境や劣化といった現在のノイズの考え方に進化してきた経緯の紹介が行われた。

2.ASIシンポジウム参加報告(コニカミノルタ 芝野広志):2006年9/18~9/20にデトロイトで開催された第22回ASIシンポジウムの内容について報告が行われた。参加者は120~130名で,参加企業はGM,フォード,それらの関連サプライヤー,日本からはコニカミノルタ,日産自動車,アルプス電気,森輝雄氏らが参加した。第1日目のチュートリアル(手法の概論解説など),第2・3日目の事例発表を通じて活発な意見交換や懇親が図られたことと,発表事例の解説も加えて報告された。

3.グループ討議:1グループ5,6名の5グループで討議が行われた。その中から2テーマについて全体討議を行った。全体討議では,①社内で品質工学を推進する際にコンサルタントを活用できない状況で,失敗なくうまく実験を進めて良い結果を示すためにはどうすればよいかが検討された。研究会の事例検討の場や研究会幹事への個別相談など,積極的な活用が勧められた。続いて,②全体最適と部分最適の考え方,各社での取組み等について,各社での考え方や現状についてヒアリングがあり,対象システムにおいて,何を評価するかを部署間で合意しておくべきであり,ノイズの問題と何を評価するかを明確にすることがポイントであると結論付けられた。

4.第9回MTシステム研究会:出席者13名のもと,サービス部門の売上予測に対する適用について討議が行われた。

(松下電工(株)木村哲夫 記)

 

2006年10月6日(金)に第150回研究会を「第4回関西地区品質工学研究会シンポジウム」としてキャンパスプラザ京都5F第一講義室において関西地区の3研究会(京都品質工学研究会,滋賀県品質工学研究会,関西品質工学研究会)合同で開催した。京都府中小企業総合センター近本武次氏による開会挨拶の後,講演と事例発表が行われた。

1.講演「開発期間を半減する品質工学」(リコー 長谷部光雄):講演の内容は以下に示す通りである。

(1)なぜ品質工学が必要か。

 品質管理の考え方においては開発段階やスペックを決める段階で市場問題のフィードバック(再発防止)では間に合わず,限界にきている。市場で起こった問題は良品として出荷されたものであるから製造には問題がなく,設計に問題がある。品質工学では問題が起こる前に対策を行う未然防止が原則である。再発防止の方法(QC)は分ければ,分かる。しかし,症状の改善しかできない。未然防止の方法(QE)はいじめれば,分かる。しかし,性質の改善をしなければならない。技術部門の役割は現在の利益を上げつつ,将来の技術を育てることで,技術開発段階の有効性評価には品質工学,製品・生産の適合性検査には品質管理を車の両輪として駆使することが真のTQMといえる。

(2)信頼性試験期間が1/100にできる理由

 品質工学の狙いは設計と開発の体質改善で,そのポイントは機能性評価である。ポリゴンミラー用高精度モーターは従来3000時間の寿命試験を実施していた。機能性評価を実施した結果,モーターのメーカの優劣は市場での実績と一致した。寿命に関しては,ばらつきを小さくすると寿命は長くなり,機能性評価を実施することで,市場での使われ方の影響を受けにくくし,結果的に長寿命を実現することができる。従来の寿命試験は3000時間,機能性評価では24時間と1/100である。機能性評価は簡単には見えない寿命や信頼性を見えるようにする手法で,技術開発段階で使う信頼性工学といえる。

(3)リコーでの取り組み紹介

 リコーの品質工学は過去2回盛り上がりがあり,現在3回目であり,品質工学の導入により,他社の後追い体質から脱却できた。統合的設計生産革新活動(TSS)のコンセプトは①固定/変動,②一貫/統合で,モジュール共通化・部品集約化に成果がでている。推進体制,教育体制等,リコーでの取り組みの紹介があった。

以下の意見交換が活発に行われた。

① 部品の編集設計は失敗する。現状では部品が付いて来ていない。

② QCとQEについて オンラインもあるし全部QEでやればよい。→原因追求も必要と考えている。現状では品質管理すらできていない。

③ 品質工学の推進成果の見える化をいかにすればよいか。→指標化すること自体品質工学的でない。

④ 成果をどう表すか。→経営指標で表す。

⑤ 将来技術に適用する時の説得にはどうすればよいか。→今までのやり方で安心ですかと聞く。検査項目は自分たちが決めたもので,お客が決めたものでない。このやり方で失敗している。

⑥ 品質工学が途中で落ち込んだ理由は何か。→トップが変わったことによる。腹をすえて推進してこなかったからトップの影響を受ける。

2.事例発表

(1)「シミュレーションによるエンジン排気流路形状の最適化」(日産自動車 牧野貴臣):シミュレーションを活用したパラメータ設計に効率化への新たな方法を提案する。標準条件のみをシミュレーションで計算し,得られたデータを用いて特性値を直交展開し,設計空間の近似式として直交多項式を作成する。直交多項式を用いて,L36に割り付けた誤差条件の計算を行う。この方法で誤差条件を外側直交表に割り付けた場合に比べ,計算仕様数は1/36に削減できる。シミュレーションでの計算結果と直交多項式での計算結果を比較した結果,十分近似できており妥当と判断した。各誤差条件を直交多項式で計算し,標準SN比による解析を実施した。本提案方法は検討する設計空間内でパラメータの効果が一次や二次の主効果で表現できるものに関しては,十分汎用性の高いものである。

以下の意見交換が行われた。

主効果のみで評価できるので,直交表を使う必要がなく,他の因子は固定で1因子の条件を変化させて最大のところを最適条件とする。→直線上にプロットが乗ったことで主効果のみで表現できることがわかる等,活発な意見交換があった。

(2)「光学シミュレーションによる光学素子のロバスト設計・許容差設計」(日本板硝子 永田秀史):制御因子を2因子(二元配置の総当たり実験),誤差因子を7因子(L18に割り付け)とり,光学シミュレーションで特性値を計算した。ロバスト設計と許容差設計を同じ評価方法でできれば全体としては,わかりやすく,見通しのよい結果が得られると考えた。誤差因子の水準を標準条件±σとして分散分析を行い,寄与率を計算し,許容差設計に必要な結果を得た。ロバスト設計では2因子3水準を二元配置×誤差因子7因子(L18)で行った。ロバスト設計と許容差設計で同じ評価値を用いるため損失関数による損失をA0で規準化した値を用いることにした。要求仕様は損失が30%以内であったが,ロバスト設計の結果,損失最小の条件を最適とした。しかし,要求仕様を満足する条件がなかったので,誤差の調整を行い,要求仕様を満足させる条件を得た。

以下の意見交換が行われた。

なぜこのような方法を考えたのか。→ロバスト設計と許容差設計を同じ評価・設計方法にすることで設計者の理解を得やすいと考えた。

(3)「押出成形品への転写性評価の展開」(積水エンジニアリング 柳本嘉弘):積水グループでは熱可塑性樹脂成形品を多数生産・販売し,中でも,押出成形品は創業当時から培われた生産技術を基に生産されている。品種の多様化,高寸法精度化,複合化等によりいろいろな課題が生じていたが,すべての技術課題の解決には至っておらず,品質工学の適用で,今までに解決できていない技術課題の対策を行った。雨樋,アルミ樹脂複合管等5事例に適用し,いずれも基本機能は金型,規格寸法に対する転写性であり,二次元・三次元測定機で頂点座標を計測して頂点間距離を計算した。制御因子に温度を取り上げる時には水準ずらし法を適用すべきである。

以下の意見交換が行われた。

① 生産性を考えた信号・制御因子は?最適条件を決める時,生産性も考慮するとよい。

② 転写性は基本機能ではない。比重の方がよくないか。

③ 市場での劣化条件が評価されていない。

(4)「シート状洗剤の洗剤スラリーの保形性向上」(花王 坂本雅基):シート状洗剤の生産工程において,製品を分割し,切断する加工工程があり,その工程で不良を出さないためには,洗剤スラリーの形状(硬さ,断面形状)を如何に維持するか保形性が重要な機能となっている。そこで,切断面に作用する引張応力に対して,断面形状を維持でき,保形性に優れていることが洗剤スラリーに要求される。保形性の評価ということからフックの法則等を検討したが,粘弾性特性を考慮し,粘弾性測定装置レオメータを用い,複素弾性エネルギー,損失弾性エネルギーを計測し,動的機能窓として解析することで貯蔵弾性がロバストであることを理想とした。速度差法での解析の結果,良好な再現性が得られ,切り分け成功率が50%から90%に向上した。他の評価方法とも比較し,速度差法の動的機能窓による評価が妥当であることを確認した。

以下の意見交換が行われた。

① 商品の機能としては,洗剤としての機能を考えるべきでないか。→利便性を追求した商品なので,洗剤が漏れて,お客様の手を汚すといったことは具合が悪い。→お客様の手が汚れるのは機能ではないのではないか。

② 切れていればよいのであれば,難しいことをなぜやったのか。→実は加工機はできていたので,スラリー側で対応せざるを得なかった。

③ 誤差因子は考えた因子だけでよかったのか。原料の種類,ロット等は必要でなかったのか。→制御できないものを誤差にするべきだし,市場での劣化等を取り上げる必要がある。

3.「まとめと講評」(関西品質工学研究会 顧問 原和彦):以下に示す内容の話がまとめとして行われた。

① 長谷部光雄氏の解り易い講演やバラエティに富んだ事例発表があり有意義であった。

② 田口玄一氏は「実験計画法」(下)のP.538に「一生懸命,長い時間働いたけれど,その成果はゼロだったときにわれわれは,その人の仕事量はゼロと考える」と書いているように,仕事の評価はアウトプットの成果でやるべきであり,世の中で成果を出さなくてもインプットの努力だけで評価されるのは間違っている。お客様のところで発生する全体のエネルギーをお客様がほしいエネルギーSβとお客様がいらないエネルギーSeの比で評価することが大切である。

③ 19~20世紀は肉体労働の生産性を向上させてきたが,21世紀は頭脳労働の生産性を上げる必要がある。

④ 再発防止と未然防止は両輪というよりも,未然防止中心でいくべきで,やり直しをする再発防止は技術力のなさを証明することになる。QCは部分最適で製造品質の改善や管理が中心であり,設計品質の改善を考えるQEを中心に考えるべきである。パラメータ設計における最適条件は最良条件またはSN比最大条件というべき,システム選択が最も重要である。世の中を騒がせている不祥事はシステム選択が悪いからで,お客様が満足するたくさんのシステムについて機能性の相対比較で評価する。また,システム設計段階で,安全設計を考えることが大事である。

⑤ 地震予測は五味伸之氏の検討で1時間前に予測できるようになったが,世の科学者は大量のデータをかかえながら,10秒前にしか予測できていなくて,地震部分の研究しかせず,地震でない部分に注目しようとしない。

⑥ お客様が望む機能について「こうあるべきだ」を考えて,「どうしたいか,どうするか」を考えて,「日々新た」に,世の中の動きに沿って機敏に変革することが必要である。

京都府中小企業総合センター近本武次氏より閉会の挨拶の後,場所を移し,懇親会を開催,多数の参加があり,引き続き活発な意見交換があった。

(ダイハツ 清水 豊 記)

 

2006年9月2日(土)に第149回研究会を開催した。出席者は34名。

1.「反射防止膜(AR)用インクの開発」(日本写真印刷 徳野勝己):AR膜の低コスト化を目的に光学特性の安定性,膜強度,耐候性,インク寿命などの品質特性を満たしたい。評価機能として波長-透過率特性で実験を行った。これに対し,①技術データの現象の検討ではなく顧客が求める機能で行うべきである。②全体システムで評価できない場合はサブシステムでも使用条件での評価となる機能を考えるべきである。③入射光→透過光の変換がこのサブシステムの理想機能で,最終製品が求める品質特性(ピーク波長など)はチューニングの問題である。④透過率で行う場合はオメガ変換する。ロス率の望小でもよいなどの議論が行われた。

2.「混合系直交表によるMT法項目選択実施例」(積水エンジニアリング 佐藤聡):QES2006-No.78の内容(2のべき乗より4の素数倍の直交表の方が,特定列に交互作用が偏らなくて項目選択の信用性が高い)の紹介をした上で,社内事例としてフィルム製造プロセスの外観不良原因の分析結果が示された。L128とL124で項目診断した結果,項目の順序を逆にした場合でL124よりもL128において要因効果の変化が現れたが,判断に影響を与えるほどではなかった。これに対して,①市販のMTソフトではべき乗系の直交表が中心で,直交表も項目のサイズで自動的に変わってしまい,割付列が変わるのでまずい。②項目に時系列データを入れると不良が起こる前の予防が可能なのではないかなどの議論が行われた。

3.「光学部品研磨の評価方法について」(タツタ電線 片山貴智):客先要求で光学部品の表面傷の低減が必要であるが,伝達機能を悪化させる要因とはなっていない端面研磨工程の安定化問題について取り組んだ。今回は傷の数を直接測った。利得は10db得られたが,利得の再現性は悪かった。これに対して,①傷しか評価項目がないのであれば,「MTによる工程不良分析」の事例と同じ方法で検討ができるではないか。②研磨の安定性と異物混入の問題が別の場合もある。③研磨の評価方法は所定の傷が消えるまでの時間,研磨長さ,表面粗さなど工夫した方がよい。④被研磨物の硬さをノイズにとって評価を行ってはどうかなどの議論が行われた。

4.「抵抗溶接評価方法の検討」(原子燃料工業 村瀬百慶):2枚の板を抵抗溶接したサンプルを引張試験(荷重-変位特性)で,標準状態を母材強度として標準SN比を評価した。誤差因子は製造ばらつきのみで,腐食,振動などの劣化要因は検討できなかった。利得が再現しない上に,品質特性(ナゲットの剥離強度)と対応が付かないなどで困っている。これに対して,①使用環境が重要なノイズで省略してはいけない。②有限の目標値(母材強度)をN0とするのは誤りではないか(テーラードブランクと同じ)。平均をN0にとるとよい。③この引張試験方法では接合部を評価したことにならない。溶接部の周りの熱影響部(弱い所)が切れてしまう。引き剥がし(十字引張)の方がよい。圧縮だと接合部のみの評価が可能であるなどの議論が行われた。

5.「TS法によるプロゴルフ獲得賞金の予測考察」(ダイハツ 清水豊):書籍「実践タグチメソッド」第8章の事例を,単位空間,データ補正,項目順序,信号空間での真値の基準化方法,項目選択方法,使用項目などの妥当性について考察した結果が発表された。また,T法でも行ってみたがTS法より悪い結果となった。単位空間が悪いからとの考察を行った。これに対して,①項目順序の関係ないT法のほうが使いやすく,計算も楽で,予測精度でも遜色はないはずである。②事例を参考に勉強する場合は注意が必要で,手順の間違いは問題だが,細かい計算間違いを気にするより考え方のみを参考にすればよい。③発表大会論文は学会審査では計算まですべて見切れない。品質工学誌の論文では査読を行うが,基本的には筆者が検算すべきであるなどの議論が行われた。

(三菱電機 鶴田明三 記)

 

2006年8月4日(金)に出席者32名で,第148回研究会を開催した。

今月は通常の事例検討以外に,「タグチメソッドあれこれ」と題して,竹ヶ鼻俊夫顧問の特別講演が行われた。

1.特別講演「タグチメソッドあれこれ」 竹ヶ鼻 俊夫:自身が取り組んだ専門分野での仕事(業績)と,製品の品質確保のために勉強された信頼性工学,SQC,そして品質工学の経験をもとに,現在の品質工学を取り巻く多くの課題,特に市民権を得るための普及活動など,さまざまな観点からの講演であった。その中で述べられた意見の主なものを下記に紹介する。

①信頼性工学やその他の品質管理手法は,既知の問題解決には有効であるが,課題の再発を防止し,さらに未知の課題への対応(未然防止)には品質工学が不可欠である。

②品質工学(未然防止)には,対象システムの機能の評価をどうするかが重要であり,これには技術者の感性(センス?)と,ひらめきが必要である。

③品質工学による研究では,誤差因子の種類やレベルも研究の成果と密接にかかわる。重要な誤差をもれなく,効率的に配置することが要求される。しかし,その判断の基準は難しい。たとえば,ハンダ付けの機能評価で使う誤差として,ヒートサイクルを考えた場合,どれくらいの温度幅で,何回与えるかの判断は,何を基準にすればよいのか。専門的に研究する部署が必要である。

④品質工学の市民権は,技術者の認知度をベースに考えると,現状数パーセントに満たないレベルである。市民権を得るためには,企業での研究成果を公表させることが必要だが,うまくいった研究は出さないのが企業であり,実際には困難である。

⑤最近出版されている書籍でも,技術を単純(一方から)に見すぎているもの(論調や定義など)が目立つ。人の感性の問題や複雑な回路構成を,あまりに単純化するのは問題である。それでは最適条件の選定に誤りを生ずるし,専門家から見れば,当たり前の結果しか出ないことが多く,これが品質工学が理解されない要因の一つと考えられる。

竹ヶ鼻氏の豊かな経験に裏付けられた話はとても興味深く,技術者として共感できる点も多い。また,技術者が品質工学を理解し,社内に広めるための課題として指摘されている点は,これからの関西品質工学研究会でも議論していきたい。

2.事例検討

(1)「マハラノビス距離の計算方法について」(村田機械 鐵見太郎):MTシステムの基本的な考え方,MT法によるパターン認識の進め方,そして距離の計算について,わかりやすく説明され,それについて会員で議論した。MT法はパラメータ設計やオンラインなどと比較して,品質工学の分野としては異質な感じもするが,どちらも目的は同じであり,“社会損失の最小化”,“生産性の向上”を目指している。また,MTシステムによる研究もパラメータ設計と同じで,何をしたいのか,これをはっきりさせることが重要である。何をしたいかは単位空間の設定にかかっていることが議論された。

(2)「シート状洗剤スラリーの保形性向上」(花王 坂本雅基):シート状洗剤の生産工程において,製品を分割し切断する加工工程があり,その工程で不良を出さないためには,洗剤スラリーの形状(硬さ,断面形状)を如何に維持するか,保形性が重要な機能となっている。そこで,応力(外力)を受けても形が変わらず,断面形状を維持できる,保形性のすぐれた洗剤スラリーを開発するべく,その評価方法も含めて検討した。当初は保形性の評価ということからフックの法則を検討したが,粘弾性特性を考慮した研究にたどり着き,最終的によい結果を得ることができている。会員からの意見としては,生データのグラフに直線性がないので,SN比の計算は標準SN比を使い,感度として速度比を用いる方法が提案された。速度比は,複素弾性エネルギーの変化(β1),損失弾性エネルギーの変化(β2),とすると,S=10log(β12/β22)で計算できることが議論された。

(3)「排気ダクト形状の最適化」(村田機械 荘所義弘):OA機器に使用する排気ダクトのパラメータ設計を,CAEを使って検討している。精密なモデルを作製すれば,現実に近い検討はできるが計算時間は膨大になるので,計算時間の短縮のためのモデルの工夫と,計算特性(評価項目)の選定を検討している。会員からの意見としては,0点比例式での解析方法と,標準SN比での解析方法が提案された。また,CAEではラフなモデルを使って計算し,詳細設計は以前のミノルタがやったように,紙を使うことも提案された。

(4)「試作部品のT法による価格予測」(コニカミノルタ 芝野広志):開発費用の見積もり精度を上げるために,MTシステムによる部品価格の予測に取り組んだ。T法での解析では,平均値を単位空間にして計算したが,予測値に負の値が出るなど,ほとんど精度がなかった。しかし,部品をいくつかの種類に分けて解析すると,精度よく予測できそうな結果もあり,今後,部品の種類分けや項目の増加など,精度を上げるための工夫を検討したいとの報告があった。

(コニカミノルタ 芝野広志 記)

 

2006年7月1日(土)に出席者39名で,第147回研究会を開催した。

1.事例検討

(1)「複写機の濃度の再現性相対評価の検討」(シャープ 林勇治):複写機の画像を機種間で比較評価する際の評価方法について,検討が行われた。信号因子(原稿パターン濃度)にばらつきが含まれている場合には,信号因子の水準を平均値とし,SN比の算出においてはVNの中に計測された信号水準の標準偏差を加えて計算するようアドバイスがあった。また,品種問題と機能性問題が混在しているので,「劣化に対するロバスト性の問題」,「転写性の問題」,「ユーザーの嗜好(目標カーブ)に対する問題」の視点で整理する必要がある等の意見が出された。

(2)「ロボットケーブル加工品の評価技術検討」(タツタ電線 大西寿章):ケーブルにコネクタ加工した部分の耐捻回性・耐屈曲性に関する評価方法の検討が行われた。ノイズ(屈曲等)の影響で金属疲労が発生していることから,周波数特性が変化していると考えて評価するアイデアが提案された。また,ノイズは負荷をつけての屈曲(応力のかかり方の違い)などのお客様の使用条件を印加し,電流を流した時の電圧の変化を評価してはどうか等の意見も出された。

(3)「消音器のパラメータ設計について」(ヤンマー 清水明彦):農機具等に用いるエンジンの消音器について,シミュレーションを用いた最適化について検討した。評価方法として,入力疎密波が出力疎密波としてどれだけ減少したかに着目すべきで,その際,音圧(パワー)と周波数の問題がある。出力が安定して減少することが重要で,その後人間の可聴域も考慮した目標カーブにチューニングすべき等の提案が行われた。また,制御因子間の交互作用問題が指摘され,水準ずらし法での対応が提案された。

(4)「芳香消臭剤の減量について」(小林製薬 田中廣通):芳香消臭剤の量減り方について,容器等の形状の最適化について検討した。評価方法としては,信号因子に時間,特性値に残存量もしくは減量として,標準SN比で評価すべきとの提案が行われた。また,既存データを用いるのであれば,開口面積を制御因子として扱い,望目特性での解析を行うアイデアも出された。

(5)「電力によるバイト加工の評価」(三菱マテリアル神戸ツールズ 和田恭典):バイト加工のばらつき低減ならびにバイト寿命延長のための電力評価について検討が行われた。1個の加工での切り込み深さを変えて評価する方法が提案され,切削量と電力量,電力量と時間に加えて,加工時と空転時の状態を評価し,最後に表面粗さと生産性を確認する方法等が提案された。

2.「QES2006研究発表大会を振り返って」(原和彦 顧問):今大会を振返り,田口玄一氏の哲学である「商品の出荷後の社会的損失をいかに最小化するか」ということに対して,中長期的にどうして行くべきか,そのためにどんなテーマを取り上げるのかを検討しテーマ選定をすべきで,戦術レベルではなく,もっと戦略的に取り組むべきであることについて話された。

(松下電工(株) 木村哲夫 記)

 

2006年6月12日に第146回研究会を,出席者39名で開催した。

(1)「数字認識」(シマノ 太田勝之):T法を用いた数字認識を行った結果が報告され,議論した。誤読せず,処理速度を上げるためには単位空間の取り方が大事で,何を項目とするかよりも,どんなパターンを取るかがより重要であると の提案があった。これに対して,項目が12個で,データが20個ならMT法でも判別 できるのではないか。さらに特徴量を考えない方がMT法では判別精度が向上する のではないか等の意見が出された。

(2)「ケーブル押出し技術」(タツタ電線 浦下清貴):光ファイバケーブル本 来の機能に問題はないが,被覆表面状態や全体の形状など外観特性を改善するた め押出し状態を直接評価したい。これに対し,形状の不安定(蛇行)は樹脂の流 速分布にばらつきがあり,その原因は温度ばらつきと考えられるので,温度測定が有効ではないか。金型(ダイス)と押出加工物の形状比較による転写性で評価してはどうか等の意見が出された。

(3)「構造体評価方法について」(リコー 安永英明):プリンタにおける構造体で,(a)耐衝撃性確保,(b)モジュール位置精度向上,(c)部品のコストダウンを開発目的として,荷重に対する変形をシミュレーションによる望目特性で解析し,ロバスト性を評価した。これに対し,振動,落下について評価されていない。塑性域まで評価すべきではないか。またロバスト評価ならパルスを入力して時間に対する変形を評価するのも良い方法であるなどの意見が出された。

(4)「手はんだ評価法開発」(オムロン 真崎藤義):手はんだ付けを行う時間の長短で,はんだ付け異常の有無(不良はんだの有無)をマハラノビスの距離を用いて評価するため,はんだ作業の要素作業時間を計測した。これに対して,出来栄えを直接評価することが望ましく,真値を何にするかが重要である。また基準空間作成には,各要素作業の時間データが必要である。今回の例では,作業者レベルを判定することは可能かもしれない等の意見があった。

(タツタ電線 高木正和 記)

2006年5月2日に第145回研究会を,出席者39名で開催した。

(1)講演「社会的トラブルを品質工学で斬る」(関西品質工学研究会顧問 原和彦):流体制御弁のプラスチック面の粗さの問題,ダッシュポットの安定化問題,プリンタの紙送り機能の故障問題,石油暖房機の品質問題などの企業の指導体験の事例を用いて,評価や技術マネジメントのあり方について説明された。特に,①テーマ選択の重要性,②生産技術ではノイズは不要でたくさんの信号を取ることが大切,③複雑なシステム,④安全設計の重要性,などについて強調された。また,JRの脱線事故問題,テロの問題,耐震構造の問題,ロケットの設計問題などを取り上げ,「設計がまずかった」という言い訳が世間に通ってしまい,同じ設計方法やトラブルが繰り返される問題を指摘された。

(2)事例検討

①「鋳造品の改善取り組みについて」(三菱重工 友光秀一,押田耕平):海水を取水して冷却機器に送水するポンプの羽根車の改善問題である。羽根車のステンレス鋳物の形状安定性(転写性,緻密性)の評価を行って,ポンプの性能を改善したい。これに対して,(a)CAEでは安定性だけ評価できればよく,絶対値のずれは実物の金型・砂型で調整すればよい。(b)鋳造で重要なメカニズム(湯の流動など)が入っていなければならない。(c)ノイズが制御因子の値のばらつき

であればN0条件だけ先にやって,その感度の傾向をみてノイズの調合を行うと良い。直交多項式を使った方法が昨年のQESの事例(日産自動車)があるので参考さ れたい,などのアドバイスがあった。

②「新型直交歯車の開発」(三菱電機 鶴田明三):本件はQES2006で発表されるもので,モータと減速比が一体となったギヤードモータに用いる新型直交歯車を開発した。今回の検討では評価を短時間化(1/10)できたが,実際に磨耗させて評価しているのは従来と同じである。さらに短時間化する方法があればご教授願いたいとの要望があった。これに対し,(a)磨耗させる方法としては,潤滑油なしで劣化させる。(b)負荷の大きさをノイズにすべきである。1Gが片持ちになっ

ているので負荷をかけると変形するので影響があるはずである。(c)軸間距離や転移係数など寸法の因子をばらつかせれば劣化は必要ない。(d)回転伝達誤差の安定性を評価する,などのアドバイスがあった。

③「最適ドラフトゲージの予測」(村田機械 坂元直孝):ドラフト条件(太い繊維束を細く引き伸ばす),繊維の物性値からの最適なローラのピッチ(ゲージ)の予測を統計手法(回帰分析)および品質工学で検討した。回帰分析では最適ピッチの予測はうまくいったが,精度アップのためT法でも検討した。単位空間は最適な特性に近いものを選択したが,真値と予測値の対応がうまく行かなかった。これに対して,(a)項目数がデータ数とほぼ同じなので,重回帰分析ではデー

タの説明がほぼ可能で,予測になっていない。相関が良くても予測精度が良いとはいえない。(b)最適な特性からのずれではなく,特性値そのもので行うべきではないか。(c)真値未知の信号ではゲージは人が決めることになってしまうのでまずい。お客さんが使える予測システムにするためには物理量のみで予測するべきではないか,などのアドバイスがあった。ゲージを項目に入れるかどうか,基準空間の考え方は研究会の中でも意見が分かれたため,後日MTシステム研究Gで再度議論することになった。

(3)MTシステム研究G:パターン認識について研究を行っている北川朋亮氏(三菱重工)によってパターン認識の種々の手法,およびMT法の位置付けについて説明が行われた。参考書として「パターン認識と学習の統計学」(麻生英樹他,岩波書店),入門書として「わかりやすいパターン認識」(石井健一郎他,オーム社)が紹介された。

(三菱電機 鶴田明三 記)

 

2006年4月1日に手島昌一氏(アングルトライ)を招聘して第144回研究会を開催した。出席者は39名。

(1)「テープ駆動機構部品の洗浄条件の検討」(ヤマウチ 加藤敦士,浅野義和):映像機器用マグネット式リール台の機能は,①テープを一定のテンションで搬送するためのトルク制御。②テープスピードとテープ残量を記録するための回転制御がある。リール台を構成するマグネット部品に異物が付着すると,リール台製造工程においてトルク不足の障害が発生する。マグネット部品の洗浄機の基本機能と出力の計測方法について相談があった。本事例に対して,基本機能はエネルギー変換で考えた方が良い,入力Mを水圧,出力yを圧力として,出力を安定させた後に実際の異物が除去できる条件にチューニングすればよい等の議論を行われた。

(2)「原子燃料使用時の変形評価の相談事例」(原子燃料工業 村瀬百慶):棒状の原子燃料は,中性子の照射・冷却水の影響等により,製造時は直立していた原子燃料がクリープ変形する。原子炉には数百個の原子燃料を配置しており,発電効率を維持するため,約1年毎に原子燃料の位置を入れ替えている。原子燃料が変形するとメンテナンス時の取り扱いに不具合が生じたことがある。品質工学的にはどのようなアプローチがよいのかについて相談があった。本事例に対して,過去のデータが豊富にあるなら,MTシステムで原子燃料の曲がりを予測する,また,入力Mを応力,出力yを変位,ノイズを制御因子のばらつきにしてシミュレーション解析すればよい等のアドバイスがあった。

(3)「風合い評価方法の事例報告」(村田機械 鐡見太郎):糸物性と布の風合いにつき,単位空間が真中のT法で解析した研究事例の報告があった。本事例は本年度の品質工学研究発表大会で発表するテーマである。項目は糸物性の番手・強力・伸度・撚数等の21項目を特性値とし,真値は布の風合いの専門家による触手判定結果(9段階)を用いた。単位空間は,真値が中央付近の20データとし,その以外の12データを信号空間として解析した。その結果,真値と推定値の相関はある程度あるため,糸物性データから布の風合いを予測することが可能になった。本事例に対して,平均値をデータとしている項目があれば,最大値と最小値の差のデータも項目に追加すれば総合推定のSN比が高くなる可能性がある等の活発な意見交換が行われた。

(4)「携帯窓のちらつき評価方法の検討」(日本写真印刷 坂田喜博):携帯窓は射出成形時にIMD箔を転写する工程で製造している。製品表面に凸凹ができれば,液晶表示装置から出された光が屈折しちらつき現象が発生する。製品のちらつきを評価するため,入力Mをちらつき度合い,出力yを輝度データ変化率の標準偏差とした予備実験を実施したがリニアな結果を得ることができなかった。そのため,ちらつきの評価方法について相談があった。本事例に対して,256階調の出力が得られるなら,田口玄一氏が提案されている“波の解析値”を特性値としてMTシステムで解析すれば判別は可能になる等のアドバイスがあった。

(5)MTシステム研究G:アングルトライの手島昌一氏より,MTシステムの体系と相関に関する考察の紹介があった。MT法は項目間の相関を重要視した解析方法であり,T法は主効果(若干相関も含む)を主要視した解析方法である。今後は両刀使いの新しい解析方法が生まれる可能性がある。MT法とRS法を比較した紹介があった。その結果,RS法では上手く判別できずMT法ではうまく判別できるとの報告があった。

(富士ゼロックス 櫻井英二 記)

 

2006年3月4日に第143回研究会を開催した。

(1)「難削材における小径ドリルの超音波振動加工」(神戸製鋼 赤澤浩一):難削材の加工に超音波援用加工が注目されている。純アルミの小径ドリル加工に超音波援用加工を用いたいが,その機能性評価をどうすればよいかについて相談があった。本事例に対して,切削の機能とともに,超音波振動の機能を評価すべきである。そのためには,超音波振動機能のノイズを検討する必要があり,超音波の消費エネルギーは計測できないか,信号を何にするかが重要であることなどのアドバイスがあった。

(2)「販売台数予測」(富士ゼロックス 櫻井英二):セールスマンに関する過去の情報を使って販売台数を予測するシステムを作りたい。TS法とT法とで予測を精度比較した。精度の説明にVTを使いたいがSN比と逆の効果になる。本事例に対して,テーマの目的をもっと明確にすべきで,VTは感度で規準化していないから使うべきでない等のアドバイスがあった。

(3)「刺繍ミシンの針穴糸通しの評価方法」(ブラザー工業 高田亨):自動針穴糸通しは,従来糸がかかったか否かで評価していたが,安定性をどのようなデータを評価したらよいか。アーム角度の時間変化を評価した結果が報告された。本事例に対して,ばねの変位と糸の張力を評価すればよいのではないか,角度と時間の関係に理想はあるか等のアドバイスがあった。

(4)「イメージセンサー画像処理技術の評価方法」(コニカミノルタ 芹田保明):異なるライティング,光源によってコントラストが強くなり,画像情報がつぶれてしまうことを防ぐ手段として,ベース光のダイナミックレンジを圧縮する方法がある。そのためにはベース光の抽出が必要である。画像処理ソフトでベース光抽出するときの安定性をパラメータ設計してみたがこれでよいかについて相談があった。本事例に対して,ベース光(信号)とノイズとの切り分けをもっと明確にする必要がある,画像濃度だけでなく,色の評価も必要である等のアドバイスがあった。

(5)「複数端末非同期の遷移システムの直交表ソフトテスト」(松下電器 山口新吾):非同期の複数端末システムで,順序が定まっていない操作(状態遷移)を直交表にどう割り付けたら良いかについて相談があった。本事例に対して,次々に起こる操作をそれぞれ信号にして,操作ボタンを水準にすればよい等のアドバイスがあった。

(コニカミノルタオプト 平野雅康 記)

 

2月3日に田口玄一氏を招聘し,第142回研究会を開催した。

(1)講演「品質工学の戦略-電子回路の機能設計-」,田口玄一:「研究開発の戦略」の書籍を資料として電子回路の機能性設計を中心に,品質工学の考え方,これからの取り組み対象等,品質工学の全般についての講義があった。

・品質工学は,使用条件で劣化や環境の変化があっても機能がばらつかないようにすることである。・一番最初に取り扱った実験は,キャラメルの硬さが室温によって変化しないようにすることであった。因果関係を調べたり,理論式ではばらつきの改善はできない。

・波を用いる情報システムで,PM(位相変調)の機能は,位相を変えることである。評価は,パワーと位相について行うが,大きさが変わっても位相に変化を与えてはならないから位相は重要であるが,パワーは受信できる程度あれば良いから参考とする。

・機能を実現するのは設計の仕事であるが,「このような機能を作れ」という設計企画は,設計の仕事ではない。日本の企業には,このような組織が存在しないが,旧電電公社では,研究所1400人中200人がテーマを考えて決めることに携わっていた。 テーマが与えられれば,技術者は機能を実現する能力があるので,テーマを与える人が必要である。

・ベル研究所では,標準条件で機能するように設計した後に,16種類のノイズ条件でテストしていたが,このやり方はまずい方法である。品質工学では,開発段階で誤差因子を入れて実験を行い,出力が安定している条件を最適条件としている。誤差因子の影響で機能が変わらないことを評価することが重要である。

・車は,方向(操舵角)と速度の2信号の問題である。道の曲がり方(曲率)が,操舵角に対する信号である。速度が上がると操舵角のSN比が悪くなり,ばらつきが大きくなるので,運転者は大きく曲がるときには速度を落とす必要があるが,速度を落とさずに運転できるようになっているので事故が起こる。技術者は,誰が車を運転しても事故が発生しないようなシステムを設計する必要がある。

・電気の問題では,電流,電圧が入力で,各々が複素数で表現され,出力も電流,電圧で各々が複素数である。4端子の問題は,2つの入力と2つの出力のマトリクスとなるが,これから取り組むべき問題である。

(2)事例検討

①「画像ムラの定量化手法の考え方」(富士通周辺機 岡林太志):プリンタの画像ムラの評価を現状では人間の目で判定しているが,MTシステムの画像認識技術による定量化を検討している。シミュレーション画像データとして,定量的にノイズを加えたサンプルをスキャナで取り込み,MT法による解析を行った結果,実サンプルのMDとシミュレーションのMD,MD2との相関があった。MDの値が大きいので,単位空間の作り方に問題がある可能性があるため,単位空間として,人間が合格と判定したものを用い,画素データなどを調べて,どのようなデータをとるべきかの検討を行ってはどうか等のアドバイスがあった。

②「切削加工の最適化」(原子燃料工業 塩田哲也):原子燃料集合体が冷却材の流れによる浮き上がりを防止するために,板ばねを原子燃料集合体の上部に取り付けている。この板ばねについて,フライス加工条件の最適化を行い,加工コストの低減し,加工表面を改善することを検討している。切削加工の機能評価は,時間-電力量,切削量-電力量で行い,この評価で最適条件を選べば,おのずと加工表面の状態も良くなる等のアドバイスがあった。

③「繊維機械のドラフト装置開発の評価方法」(村田機械 坂元直孝):繊維機械のドラフト装置では,何対かのローラの表面速度を順に速めて繊維相互のズレによって太い繊維束を細く引き伸ばす。ドラフト装置の開発では,現在,実際に糸にした後に,糸ムラ,糸強度,番手ばらつきなどを評価している。糸ムラの評価で,U%は変動係数であるから,SN比の逆数となっている。これを用いて安定性の評価を行えばよい等のアドバイスがあった。

④「周囲温度変化による熱変形抑制のための放電加工機の構造最適化」(三菱電機 野村徹):放電加工機では,一日の気温の変化とともに周囲温度が変化することにより,ベッド,ラム,ヘッド等の躯体が熱変形し,原点ズレや加工軸ズレが生じ,加工精度が影響を受けている。使用環境や周囲温度変化に対して,熱変形量のばらつきを抑制するための放電加工機の構造改良を検討している。標準的な周囲温度の変化に対して,制御により熱変形量の補正を行っているが,制御しなくとも周囲温度の影響を受けないようにすべきである等のアドバイスがあった。

(3)MTシステム研究G:単位空間の作り方について,事例検討で問題になった画像ムラを評価する場合を例にとり,議論を行った。

(三菱重工 高濱正幸 記)

 

1月14日に総会と原和彦顧問の特別講演を行った後に第141回研究会を実施した。

(1)総会:芝野広志会長より「研究会発足当時より持ちつ持たれつの研究会ですので,各自テーマ・話題を持ってきていただき,ますます研究会の活性化を図りたい。新しく会員になられた方を対象に品質工学入門コースも計画しており,会員のためのサービスも充実させて行きたいと考えている。」との挨拶があった。2005年度活動・会計報告,2006年度活動・予算計画,新幹事が承認された。また今年度より新たに「MTシステム研究G」が発足することが承認された。

(2)原顧問の講演「大会テーマにことよせて」:2006年の研究発表大会のテーマは「モノ・コトの見極めに革命を」である。モノはシステムや商品といったように実際に目にみえるもので非常に関心が高い。一方,コトはシステムの機能やポジティヴな価値やネガティヴな負の遺産(社会的損失)のように目に見えないもので,これには関心が薄い。品質工学はコトの研究をするので,わかりにくい。今,話題の構造設計問題でも鉄筋を減らしたから悪いのではない。震度がいくら

まで保たなければならないというようなことではない。震度は振動ノイズであり,破壊強度を問題にする前にロバストネスが必要である。構造設計には無駄な材料を節約する塑性設計が必要で,あらゆる所で応力が同じになるようにすることが大切である。構造設計は鉄筋量やコンクリート量のほかにダンパなどの粘弾性やばね系を含めた耐震設計が大切である。品質工学では「コスト第一」で,「品質第一」ではない。コストを安くするには品質・安全性を高めないとできない。

品質工学は従来とはまったく違った考え方だから“革命”なので,それが社会的損失の最小化につながると考える。トラブルが起こってから解決する問題解決型ではなく,課題解決型でトラブルを起こさないというのが重要である。今年の研究発表大会では,パラメータ設計をして利得がいくら改善できたというようなレベルの発表は聞きたくない。テーマの背景や経営にどれだけ貢献できたかということに重点をおいて発表してもらいたい。

(3)研究会:グループディスカッションの形で4グループに分かれて実施した。

その中から次のテーマについて全体討議を行った。

「ヒーター温度特性の向上」(松下電工 木村哲夫):ヒーターON後目標温度にできるだけ早く上げたいということから,標準SN比で設計して再現性も得られた。チューニングをする時どのように目標値を設定すればよいかということに質問が行われ,安定性は標準SN比,立ち上がり時間は目標温度に到達するまでの時間を計測し,望小特性で評価して,少ない電力で早く温度を上げる。20世紀型のSN比と感度で感度を大きくするということでよいのではないか等の討議が行われた。

(4)MTシステム研究G:「MT法での直交表比較」(ダイハツ 清水豊):MT法で項目選択にL16とL12を使った場合,要因効果図で効果が逆転する項目がある。また,項目選択後,L16で割り付けを変えない場合とL8にした場合にも要因効果が逆転する項目があったとの報告があった。

(5)新年会:研究会終了後,新年会を実施,和気あいあいの中,引き続き活発な議論が行われた。

(ダイハツ 清水 豊 記)

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